ある探検家の述懐

ちょっと気が向いたので、たまには何か小説のようなものを書いてみようと思う。



私がかねてから憧れていた探検家という職業に就けたのは、酒場でノキア号という船のことを聞いたのがきっかけでした。
すぐに手紙を書いて送ったところ、ノキア号のエロップ船長から、ちょうど探検家を探していたところだという返事があったのです。
初めて船長のもとを訪れた日、彼は私に向かってこんなことを言っていました。
コロンブスの新大陸発見からもうだいぶ経つ。最近ではめぼしい海はあらかた探し尽くされてしまった。君は、なぜ私が今更探検家を雇うのか疑問に思っているかもしれんな」
私がどう答えようか迷っていると、船長は続けて言いました。
「私はね、このノキア号をより活力のある船にしたいのだよ。実は私自身、この船に来てから日が浅いのだがね。どうもこの船には要らないものが多すぎる。私がここに来た最初の日、船員達が船具を自分たちで作っているのを見たよ。やつらは『ノキア号で作られた部品はキュートで質がいいと評判だ。他の船でも使ってもらっている』だなんて自慢げに話していたが、今日日そんな非効率的なことをやっていたんじゃ儲かるものも儲からん。すぐにやめさせたよ。私の知り合いに船具職人がいてね。ちょうど新製品を大々的に売ろうとしていたところだったから、ノキア号では全面的にそいつの船具を買うことにした。その甲斐あってこの船も今ではすっかり最新鋭の仲間入りだよ。派手で客受けもいいし、船具職人の方も名が売れたと言って大喜びだ」
そこまで一気に話すと、エロップ船長は私の方を見ました。
「そうそう、君の話だったな。この船はこれまで昔ながらの定期客船としてしかやっていなくてな。それじゃぁだめだ。もっと投資家を引きつけなければならん。そう思っていたところに君からの手紙が来たのだ。えぇと、どこにしまったかな……」
彼は机の引き出しを開けては閉じて私の手紙を探していましたが、すぐに諦めたようでした。
「まぁとにかく、君の役目は、ノキア号に乗ってまだ見ぬ大陸を探すことだ。もはや黄金郷などどこにもないと私は思っているがね。まったく可能性がないとも言えんしな。常に水平線に目をこらして、新大陸を見つけたら『ここだ!』と大声を上げてくれたまえ。その時は私もすぐに駆けつけようじゃないか。きっとその後のエールは美味いぞ」

〜 〜 〜

それから 2 年半ほどの間、私はノキア号の乗組員となり、船長に言われたとおり水平線のかなたに見慣れない陸地が見えないか目をこらして日々を送っていました。
結局のところノキア号はふつうの客船であり、たいていは同じ航路を通っていたので、新大陸など見つかるはずもなかったのですが、それでも私はいつか本当に探検できる日を思い描いて、それなりに満足していたと思います。乗船した客――どこかの貴族のようでした――から、
「この船には探検家が乗っていると聞いていたのだが、本当だったのだね。客船に探検家だなんて珍しいが、夢のある話だ。応援しているよ」
などと声をかけられたこともあります。
しかし、それも、先日の嵐に遭遇するまでのことでした。深夜、私は船室で眠っていたのですが、どうにも船が揺れて、目が覚めてしまいました。船室を出て、通りがかった船員を捕まえて聞き出したところ、ノキア号のすぐ前に嵐が見えていて、このままでは飲み込まれてしまうかもしれないということでした。そんな風になるまでどうして誰も声を上げなかったのかと尋ねましたが、その船員は自分にもわからないと首を振るばかりでした。
様子を見ようと甲板に出たとき、エロップ船長とシスラマ副船長が言い争う声が聞こえました。近づいてみると、エロップ船長は脇に何かの箱を大事そうに抱えているのが見えました。乗客のうちの若い女性が何人か、彼の後ろに立っていました。彼女たちの向こう側では、救命艇が海に下ろされていました。
「何をしているのかと聞いているんです」
シスラマ副船長が低い声で唸るように言いました。エロップ船長が答えました。
「あの嵐が見えんのか。私はこの救命艇で、ご婦人方を陸地に送り届けなければならない。これからは君が船長代理としてこの船を率いてくれたまえ。私としても残念だが、ノキア号の栄誉と歴史を君に預けよう」
少しの間沈黙が続きました。しかしこうしている間にもますます船は嵐に近づき、風が強くなっているようでした。
「本当に残念だよ」
口を開いたのはエロップでした。副船長に背を向け、女性達を救命艇に下ろし始めました。副船長は何もしませんでした。
「ねぇ、船長さん。私たち本当に陸へ帰れるの?」
救命艇に降りながら、女性の一人がエロップに尋ねるのが聞こえました。
「その通りですよお嬢さん。知り合いの船具職人が避暑地に別荘を持っていましてね。そこにお連れします。こんな恐ろしい体験をなさった後だから、私が責任をもって皆さんをおもてなししますよ。気に入ったら、ずっと滞在してください」
「まぁ素敵だわ」
私には、彼らの言葉が、嵐の中で聞くべきもののようには思えませんでした。しかし、そんな私を振り返ることもなく、彼らは救命艇でこぎ出し、あっという間に夜の闇に紛れて見えなくなりました。

うん、僕には小説を書く才能はまるでないな。