『日本沈没』を読んだ (聴いた) + 観た

日本沈没』(小松左京) の小説版と映画版を、今さらながら楽しんだ。

小説版

Kindle電子書籍を購入した。上下巻に別れているバージョンと、1 冊にまとめられた「決定版」があって、今回は後者。Kindle ストアの説明によると、図版の追加や、作者の次男である小松実盛さんによる本作執筆の背景解説も、決定版のみの特徴なのだそうだ。

とにかく、リアリティというか、ディテールがすごい。僕には、自分がこんなに深く広く書ける事柄が思いつかない。

第二次関東大震災の被害が列挙されるところで、「自分の身に起きたら」を想像せずにいられなかった。というのも、僕は、津波の影響を受ける地域に住んでいるからだ。クローゼットの一番上に登ればやりすごせるだろうか? ダメかもしれない。

関西で浸水が始まっていることがわかるあたりも、「えっ、もう」というショックを受けた。はっきりと、現実の今の日本でなくなるのはここからだと感じた。海外への退避が始まって以降も、全国に住んでいる人たちが、あちこち水没している中で無事に集合場所へとたどり着けるのか、ハラハラしどおしだった。

全体を通して、様々な人の様子が次々に描かれる群像劇的な構成になっていた。一応、小野寺をはじめとする D 計画関係者の様子が何度も描写されるものの、それはあくまで流れをわかりやすくするために引かれた補助線のようなものと感じた。

ちなみに、自分で読むのではなくて、Kindle電子書籍版を買い、iPhone の読み上げ機能を使って音声で聴いた。やったことなかったので。ところどころ読み方がおかしかったり、ページをまたぐ時に音声が欠けたりしていたのが残念だけど、だいたい聴き取れた。夜、ベッドで子守唄代わりに聴いてたけど、中盤あたりからハラハラし過ぎて逆に目が冴えたのは、嬉しい誤算と言っていいのかな。

映画版 (1973 年版)

日本沈没

日本沈没

日本沈没』は 2 回映画化されている。1973 年と 2006 年。ただし 2006 年の方は、主役がジャニーズ所属だったためか、オンラインで配信されていない。できれば両方観たかったけど、そういうわけで今回は YouTube で、1973 年の方を観た。

第二次関東大震災のディテールは、映画版でも入念に描かれていた。これ以降、首相官邸などの建物内でも、壁に亀裂が入ったり、天井から砂埃が降ってきたりしていた。原作版ではそこはいちいち描写されないので、なんとなく、全国が地震でボロボロなのに首相官邸だけ安全地帯でもあるかのように変わらない印象だったけど、映画版では緊迫感がよりわかりやすくなっていた。

自身の仕組みを解説する学者役で、さらっと竹内均さんが出てきたので、意表を突かれて吹き出してしまった。僕は中学生の頃、雑誌『Newton』の編集部見学に応募して、当時編集長だった竹内さんにお会いできたことが、一度だけある。あの時の穏やかで理知的な雰囲気は、この映画でも同じだった。

関西が水没したあたりからの描写は駆け足で、あまり描かれなかったのが残念。上空から日本を見た映像はあって、京阪や四国が水没している様子が見て取れたりするのはよかった。個人的には、日本の水没の様子をもっと逐一見たい。できれば、本編の端っこにワイプで日本全体の海岸線を表示してほしいくらい。

おおむね原作小説に忠実なので、先に原作を読んでからこの映画を観ることでイメージを補完できた。

一方で、わずか 2 時間半で原作の複雑かつ膨大な情報を詰め込むのはやはり難しく、ダイジェスト的になっている面はある。原作に忠実であるが故に、逆にわかりにくくなっている部分もあったかもしれない。例えば、映画の中だけで見ると、小野寺の性格や考え方、行動の理由が理解しづらく、結城に至っては「なんかいきなり殴りかかってきた人」と誤解されるかもしれない。

余談だけど、最終盤、火山灰が降りしきる中で会話がなされるシーンは、撮影大変だったろうなと思った。単に何かの粉が降ってるだけでも目に入りそうなのに、風が結構強い。見ていて「うわあ、この中できっちり演技をやり通すなんて、プロはすごいな」と思ってしまった。