iモードが成功した要因のひとつに、コンテンツを HTML ベースにしたことがある。経験者やノウハウがすでに存在した HTML を利用することで、いわゆる勝手サイトが爆発的に増え、エンドユーザに対してコンテンツの豊富さをアピールできた、というものだ。
Java 2 ME (現・Java ME) をベースにしたiアプリも同様で、この場合はさらに、他キャリアも Java 2 ME ベースだったために、アプリ開発側の負担を減らすことができた、という相乗効果もプラスになった。
一方、こういった「ドコモが一人勝ち」の状況から脱却するために au は Java 2 ME から BREW に乗り換え、それまで au 向けに勝手アプリを作っていた人たちを大いに落胆させたわけだが、最近はドコモも路線変更し始めた気配がある。
以下、根拠レス。
勝手コンテンツはプラスにならない?
au が BREW の全面採用を決める中で「勝手アプリを捨てていいのか」という議論はあっただろうと思う。また、「Java が使えなくなることで、コンテンツ提供側が離れないか」という点も検討されたと思う。
それでも BREW 採用が決まったということは、
という判断があったことになる。もっとも、au の場合は、QUALCOMM の提供するチップを使わなければならないという制限からアプリの性能が伸び悩んでおり、Java 2 ME を採用している限りドコモに勝てることがなさそう、という懸念が判断に影響しただろうとは思う。
しかし、au にとってもっとも重要だったのは、勝手コンテンツをサポートし続けても、費用が増えるだけで、一般の利用者 (とくに、「アプリ★ゲット」などの勝手アプリ紹介サイトをわざわざ訪れないような人たち) に対してアピールすることはできないという観点だったのではないか。
au の動向を見ていると、コンテンツの「供給者」と「消費者」を完全にわけて考えていることがわかる。つまり、商売の相手は、例えば「ショップブランド」「セキュリティのため厳格に管理」といった単語にプラスイメージを抱いてしまうような、「もっぱら買い手」の人たちであって、この層にアピールする上で勝手アプリはプラスにならないどころか、「素人作品がまざると雰囲気壊れるのでお帰りください」的なスタンスでやっているように思える。
au が以上のような方向性を決めたのは、CDMA 1X WIN を開始したあたりの時期だと思われる。かくして、コンテンツのプッシュ配信サービス「EZ チャンネル」は公式サイトのみ提供可能となった。また、「EZ アプリ (Java)」の Phase 3 は、WIN 対応端末の中ではわずかに 2 機種の対応となり、Phase 3 用の開発キットも、公開直後に au のサイトから撤去されてしまった。大手ブランドのアプリをキャラクターで売り込むべく、「EZ Game Street!」も開設された。
「オープンプラットフォーム」のミスリード
ドコモは、9 月 9 日に、701i シリーズを対象とした「iチャネル」サービスを開始する。これは、Flash ベースの技術「FlashCast」を採用したプッシュコンテンツであり、au の「EZ チャンネル」に相当する (EZ チャンネルは SMIL ベース)。
このiチャネルについて、ドコモをはじめ、ニュースサイトなどでは、「オープン」ということが喧伝されている。例として ITmedia +D の記事を挙げてみる。
配信技術として採用されたのは、マクロメディアの「Flash Cast」(2004年11月の記事参照)。FlashCastのコンテンツは、広く普及しているオーサリングツールMacromedia Flashで作成できるため、プッシュ配信用のインタラクティブコンテンツを比較的容易に作成できるという。
ITmedia +D モバイル - 「iチャネル」の仕様が公開──FlashCast技術を採用
iチャネルはオープンプラットフォームのコンテンツで、ドコモは2日、iチャネルの仕様を公開した。FlashCastサーバとコンテンツを用意することで、iモードの勝手サイトのように、勝手iチャネルを開設することも可能だ。
最後に「勝手iチャネルを開設することも可能だ」と書かれているが、その直前を見ると「FlashCastサーバ」が必要であると書かれている。これは一見「FlashCast に対応するサーバ」という意味にも見えるが、実際は Macromedia の製品名だ。つまり、FlashCast サーバを購入するか、どこかのサービスにホスティングを依頼する必要がある。
- Macromedia - i チャネルの FlashCast サーバーについて
- http://www.macromedia.com/jp/mobile/ichannel/
というわけで、現時点で見る限り、一般の利用者が「商店街のお知らせを、iチャネルで配信できたら便利だなぁ」とか思っても無理そう。
最近のドコモの動きを考えると、
- iアプリやキャラ電での 3D モデルに Mascot Capsule 採用
- データフォーマット非公開。必要なプラグインは無料でダウンロードできるが、プラグインが対応しているモデリングツールがないと開発できない
- Flash Lite の採用
- 製作ツールとして Macromedia Flash が必要。swf ファイルについてはフォーマットが公開されているものの、専用のプラグインが必要なので、Flash 互換の各種製作ソフト (Flash Maker とか Laszlo とか) を使って Flash Lite 対応の swf ファイルを作ることはできない
- ビジネス向け FOMA での BREW 採用
- au と同様に、キャリアが許可したアプリしか配布できない
などが思いつき、勝手コンテンツ製作者はかなりおいてけぼりにされていることに気づく。つまるところ、最近のドコモがいう「オープンプラットフォーム」とは、「ドコモの完全独自仕様ではない」という意味でしかない。Compact HTML ベースに作られたiモード用 HTML のような「誰でも作れます。フォーマットはこちら。製作ツールもご自由に作ってください」というニュアンスはないのだ。にもかかわらず「オープンプラットフォーム」という言葉が使われているのは、冒頭で述べたような「iモードはオープン性で成功した」という名声を損なわないためにすぎない。
こういうドコモのスタンスが、au と同じ理屈なのかは、正直まだよくわからない。単に「派手に見える技術を楽に手に入れようとしたら、他社からライセンス受けるのが早かったから」ということかもしれない。ただし、少なくともiモード初期に比べて「勝手コンテンツはそれほどプラスにならなくなってきた」という計算はしているように思われる。そして、すでに Flash Lite コンテンツを製作しているようなコンテンツ提供者を中心に考えた場合、同じく Flash ベースで新サービスに対応できる FlashCast に、初めてメリットが出てくる。そして、今後もそういった「お金を投じているコンテンツ提供者」を中心にすえ続けるのであれば、勝手コンテンツがこれ以上広がることはなくなる。
でもやっぱり期待したい
iアプリ登場当初のパンフレットや説明書では、「サイト (番組)」という記述がなされていた。従来の携帯電話や一般電話にあった情報サービスの「番組」を基にした表現だと思うが、ここで勝手コンテンツをきちんと視野に入れたことが、iモードをはじめとするインターネット対応携帯電話の成功の大きな要因であったことを、キャリア各社には再度確認してほしい。
音声通話が通信インフラとして認識されているのと同じように、勝手コンテンツが提供可能であることも、現代の通信インフラとしては必要な要素なはずだ。もちろん、iアプリDXでの「トラステッドiアプリのみ利用可能な API」のように、ユーザの安全性を重視した制限は必要だ。けれども、キャリアが承認した業者しか作れないとか、キャリアが「金になる」と判断したコンテンツしか公開できないとかって、ちょっと自分本位にすぎないだろうか。
その点で、勝手コンテンツの仕様書や製作ツールをきちんと提供しているiアプリは、広範な利用者からの期待へ、十分に応えているといえる。同様に、開発する人を選別しないような新サービスの開発を続けてほしい。これは、今後携帯電話事業に参入する業者についても訴えたい点だ。
もし、携帯電話の普及率にあぐらをかき、今後も自社の利益のみ考えるスタンスで発展を続けようとすれば、投入した新機能がユーザにそっぽをむかれるという可能性だってあるのだ。ナンバーポータビリティを前に、「見た目だけのクローズドな新サービスを続々投入! でもユーザはドン引き」なんて展開は、誰にとってもプラスにはならない。
- ITmediaモバイル - 内蔵ブラウザよりiアプリ版ブラウザ?
- http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0508/22/news072.html
長々と書いてきたが、要は、最近のドコモさんにはガッカリですよ、もうちょっとがんばってよ、という話。今からでも、「Compact RSS」とか作ってくれないかなぁ……。